昨今、より良い管理会社選びをしたくても、どうも決め手に欠けると思われている方は多いのではないだろうか。
コロナ禍の状況下、マンションに暮らしている方々が、自分たちの住まい、そして管理についてこれまで以上に考える機会が増えたように思う。実際、理事会の開催機会こそ減っているにも関わらず、私たちマンション管理士のもとには、管理組合員からの「管理会社への不満」や「管理会社の変更」といった管理会社に関わる内容のお問い合わせが増えているのだ。
無論、「マンション管理=管理会社」ではない。よく使われる言葉でいえば「マンション管理の主体は管理組合」である。だからこそ、組合員がまったくの無関心であってはいけない。とはいえ、管理実務という意味では現実的にはマンション管理実務の中心は管理会社ということもできる。その証拠に管理組合会計の支出割合を見ても、管理会社へ支払う委託費が最も多いのも事実だ。また、的確に実務をこなしてもらえる管理会社であるなら、少なくとも管理崩壊といった最悪の事態を避けることも可能だろう。
さて、現在は活発に活動している管理組合であっても、主体性を率先して発揮している主要メンバーも高齢化していく。マンション管理の主体は管理組合とはいっても、困難になっていくことも十分想定できるだろう。そうすると今まで以上に実務面だけでなく「信頼できる管理会社」の存在が重要になる。
管理会社はマイカー選びのように簡単ではない
管理組合にとって重要な役割を担う管理会社。だが、マンションの将来を託せる、信頼できる管理会社選びは決して簡単ではない。
例えばマイカー選びであれば「フィット」だ、「スイフト」だ、とメーカーや車種ごとにスペックをカタログ上で比較検討することができる。
しかしマンション管理は、カタログスペックでは表せない目に見えない要素が多くある。マイカー選びのような比較は簡単にはいかない。仮に「管理会社/管理戸数ランキング上位10社」の比較表を作ったとしても、決め手につながるような違いを見つけることは困難だと思う。
ならばいっそのこと「金額が一番安い管理会社にする」と考える方がいても不思議ではない。しかし、ご存知のように昨今では人件費の高騰が社会問題化しており、マンション管理業界も例外ではない。
労働集約型産業といわれる管理業界においては特に現場を支える管理員やフロントマンの人材不足は顕著。一昔前の「管理委託費の値下げ競争時代」のように、管理会社を変更すれば必ずしも金額が下がるといった状況ではない。
また、マンション管理に対する居住者の満足度に与える影響は、管理会社の規模や知名度よりも現場で働く管理員やフロントマンの資質が大切な要素であることが既に知れ渡っている。こうなってくると「いったい何を基準に管理会社を選んだら良いのか?」判断基準を見極めることがさらに困難になってくる。
何を判断基準に管理会社の良し悪しを決めるのか?
マンション管理士である私の業務で、最も慎重に取り扱っているのが、管理会社の変更(リプレイス)だ。なぜなら、一番良いと思う管理会社を推薦し、総会で決定したとしよう。しかし、新しい管理会社が実際に業務を開始しても、必ずしも皆が満足する結果になるとは限らないのだ。
プロの判断でもこのような結果になるのを踏まえると、組合員の方々が管理会社の良し悪しを判断することは、なおさら簡単ではない。
管理会社の方からすれば、いわゆる管理受託を成功させるため、管理棟数を増やすためには、管理組合に何をアピールすべきかが大切になる。今では多くの管理会社が提供している「専有部サービス」や「WEB理事会」といった取り組みも、最初こそ先進性のアピールができていても、すぐに他社も追随して差別化は一過性だ。もちろん、業界全体の切磋琢磨が管理を良いものにしていることは十分理解しつつも、管理会社変更(リプレイス)の場面に限れば、管理組合を引きつける魅力的な「キラーコンテンツ」は見当たらない。
管理会社からの情報発信は組合員にとっても大いなるメリット
こうした中、一部の先進的なマンション管理会社が、自社の公式コーポレートサイト以外に、この「マンション元気ラボ」のような情報発信のためのポータルサイトを設けて、管理組合にとって有益な情報を届ける取り組みをはじめている。
これは管理組合にとってもありがたい流れといえるだろう。なぜなら、マンション管理会社は、私たちのような個人事業主に近いマンション管理士やコンサルタントといった者とは比較にならない膨大なノウハウやデータを蓄積しているからだ。このような貴重なノウハウの一部が公開されるのであれば、管理組合にとっても有意義なモノになるはず。
一方で、こうした管理会社の活動に対して、「結局は、仕事を受託するための手段ではないか!」といった見方をすることもできる。
情報を受取る側のリテラシーが求められる
もちろん管理会社は営利を目的とする企業だから自社の利益につなげるために、こうした情報発信をおこなっているのは当然のこと。
この「マンション元気ラボ」を例としてあげるのであれば、短期的な結果は求めてはいなくても、ゆくゆくは巡り巡って主催者である「大和ライフネクスト」の認知や管理受託につなげることが目的のひとつである筈だからだ。
この目的を私の立場で一概に批判することはできない。なぜなら管理会社だけではなく、すべてのメディアや、私たちコンサルタントも何らかの目的があって情報発信をしているのだから。
例えば、マンション管理士事務所であれば、ホームページやブログを介して、少し大袈裟な表現を使って「組合員の不安を煽る」マーケティング手法が広く用いられている。こうした情報は多少誇張が含まれていても、結果として管理組合にとって貴重な情報源として役立っていることも事実だ。
管理業界に限らず、インターネットやSNSの普及にともなって、それを受取る側のリテラシーは不可欠になっている。多くの情報の中で、何を信じてどの情報を受け入れるかは各自の判断に委ねられているのだ。
「有益な情報を発信している」ことが管理会社選びの重要ポイントに
管理会社選びにおいて、決定的な判断基準がない状況の中では、管理会社が管理組合にとって役に立つ情報を積極的に発信していることは重要な選択ポイントになる。なぜなら、これまで管理会社をネガティブに捉えてきた背景には、管理会社の業務・活動内容が不透明だという批判が含まれていたからだ。
もちろん、こうした管理会社による情報発信サイトにおいては、関係者が書いた記事に多少の忖度が含まれるのは致し方ないことだろうが、その分は差し引いたとしても、これから自分たちの大切な住まいの管理を長年任せる管理会社の社員の生の声を聞くことができれば仕事を依頼する上での「安心感」「信頼感」につながるはずだ。
管理会社の情報発信力に注目
マンション管理は正解がひとつではなく、情報公開において実にナイーブな問題をはらんでいる。例えば『マンション元気ラボ』の投稿に関しても、せっかく大多数の方に有益な情報であったとしても、一部の方からは不満の声をいただくリスクもあるかもしれない。こうした中、これまで閉鎖的にも思えた管理会社が、しかも大手の管理会社が情報発信サイトを設けて社員個人や、私のような外部のコンサルタントからの投稿を受け入れることは画期的な取り組みといえる。
これまでになかった「①管理会社が有益な情報発信をする」「②組合員が管理会社のファンになる」「③この管理会社に任せたい!と思う」といった流れが、これからの管理会社選びの重要な要素に発展して、これまで以上に「管理組合」と「管理会社」の良縁につながることを期待してならない。