今の管理運営が被災時のマンション復旧に与える影響とは?

防犯・防災
今の管理運営が被災時のマンション復旧に与える影響とは?

いつ来るかを予想ができないのが、“地震”だ

台風や大雨など、近年の災害は、その激しさや規模もその被害は甚大化しつつある。台風なら予報によりあらかじめ準備や避難も可能だが、地震の予測はいまのところ不可能だ。いつやってくるのか、誰もわからない。

世界に占める日本の面積は0.25%に過ぎないが、マグニチュード6以上の地震回数は22.9%を占める地震大国。それが日本。東日本大震災以降、熊本地震だけでなく、すでに大きな被害を及ぼす地震が何度か発生している。

北海道胆振東部地震では、ブラックアウト(大停電)が数日間、続いた。灯油であれガスであれ、電力なしでは暖房器具は使えない。穏やかな季節だったからよかったものの、冬季に発生していたら、都市部のマンションでも、複数の凍死者が出てもおかしくはなかった。決して大げさなことではない。北海道出身の筆者は、零下の暖房が使えない室内の耐えがたさを知っているし、災害時でなくても、熱中症の室内死亡よりも凍死の方が2倍も多い。

大阪北部地震では、大規模修繕工事を終えたばかりの大型マンションが大きく資金的ダメージを受けた。修繕積立金は底をついていたが、幸いにも復旧に要する1億円弱の費用は地震保険で賄えたと聞く。被害の程度にもよるが、復旧には莫大な費用を要するのだ。

一番は人命。ではどう守る!?

震災では、人命をどう守るかが一番のポイントだ。発災期にだけ、人命のリスクがあるのではない。生活復興までの過程の中で、多くの命が失われる痛ましい事実もある。

熊本地震では、地震による直接死は50名だった。その後の災害関連死は222名と直接死の4倍を超える。関連死では避難所なども含め被災生活期でのストレスや病気の悪化が原因になることが多い。生活を取り戻す、いわゆる生活復興に行き詰まり、肉体的・精神的な疲労が原因になってしまうような不幸なケースは後を絶たない。

私は、震災対策のセミナーなどで、「生活復興に関わる災害救助法や被災者生活再建支援法などからの支援金制度は、今は学ばなくても良い。今やるべきことは“備え”や“コミュニティの醸成”、そして確かな管理運営を行うことの方が大切。支援金制度は、被災してから行政に行ってしっかり話を聞いてからでも間に合う」と再三に渡り伝えてきた。

とはいえ、大事なことであるのは、変わりはない。今回はコラムの紙面を借りて、どんな制度があるのかを簡単に触れ、また日頃の管理運営にかかわる事案も紹介しておこう。

熊本地震──新耐震基準のマンションも全壊

新耐震基準を満たして建築されたマンション(1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認を受けた建物(以下「新耐震」という。))は確かに地震に対して、より堅牢に作られた建物だ。しかし、全壊することがないわけではない。あくまでも、震度6程度でも倒壊しないレベルの強度ということだ。

熊本では、大規模半壊が22棟、全壊が17棟にのぼる。全壊のうち新耐震のマンションが9棟あった。全壊とはいっても、いっぺんに崩れ去るようなマンションの倒壊には至っていない。地震に脆弱な古い木造家屋であれば、2階が1階に落ちてぺちゃんこに潰れ、人命を失うケースもあったが、幸いにもコンクリート造であるがゆえに、そのような状態には至らなかった。

ちなみにこの大規模半壊・全壊とは、罹災証明の判定基準で使われる言葉になる。建物の安全性の基準である被災度区分判定では、大破・崩壊という言葉を使い、地震保険の損害基準では、大半損・全損。また、区分所有法では大規模滅失といい、被災マンション法は全部滅失というなど、4つの言い方を使い分けしなくてはいけない。適応する制度等の違いもあり、致し方ない話だが混同しやすい。

マンションの復興に必要な行政の支援を受ける場合は、罹災証明の判定基準でいう大規模半壊・全壊を使うことになる。

災害救助法と、その応急修理

コンクリート造のマンションでも、各住戸の窓などの開口部分にはX字型の亀裂が走り、程度がひどいものは顔を入れて中がのぞけるような貫通クラックも発生する。玄関ドアはゆがみ、開閉ができない状態になる。建物をつなげるエキスパンション部分が落下し、その先の住戸に渡れなくなったりと、全壊よりも軽い認定になったマンションでも、数多くの損害がでていた。

そんな場合、もちろん激甚災害に指定され、罹災証明を取ることが前提となるが、戸建ての場合、被災した住宅の屋根や台所・トイレなど日常生活に必要不可欠な最小限度の部分の応急的な修理への支援制度がある。それが、応急修理という制度だ。平たく言えば、倒壊して家を失った人を優先し避難所や仮設住宅にあてがい、修理で済むなら自宅で被災生活期を送ってもらう趣旨の制度と考えてよい。
市町村が修繕会社に依頼し、修理費用を市町村が直接業者に支払う形を取るが、世帯当たり半壊で595,000円以内の支援がされる(所有者の資力や被災の程度などで要件は変わる)。

この制度を読み込むと、一見、戸建て制度でマンションには適応されない制度と勘違いされるケースも多い。事実、東日本大震災の際は、行政の窓口にマンションも対象であることを理解してもらうのに大変苦労したという話もある。また、マンション管理の専門会社も制度の存在すら知らないケースは多いのではないだろうか。

マンションの場合、被害を受ける対象部分のほぼすべてが共用部分なのだが、理事会などで対象住戸の費用を合算し、入居者等の正式な同意書が得られれば手続きを進めて行ける。各戸の面する共用部分側の被害の程度にもよるが、例えば100戸分が対象でその他の条件にかなうなら、5,950万円以内の支援がうけられる計算にはなる。

※内閣府の資料「区分所有マンションの共用部分への適用の事例」参考

http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjzy7j3x LDsAhUUMN4KHbrnBecQFjABegQIBxAC&url=http%3A%2F%2Fwww.bousai.go.jp%2Ftaisaku%2 Fpdf%2Fsumai%2Fsumai_6.pdf&usg=AOvVaw1WJA5y4XZCkbzWf8ePSvDb

被災者生活再建支援制度等

続いて紹介するのは、被災者生活支援制度だ。
大きくは、住宅の被害程度に応じて支給する支援金(基礎支援金)と住宅の再建方法に応じて支給する支援金(加算支援金)がある。
● 基礎支援金:全壊・解体・長期避難でそれぞれ、100万円ずつ支給される
● 加算支援金:再建もしくは購入で200万円、補修100万円が支給される

また、解体するにも多大な費用が発生し、解体そのものは生活再建やまちづくりの第一歩という位置づけにもなる。しかし、坪あたり解体費としてはいささか安い金額すぎるかもしれないが、仮に15万円とするならば、20坪程度の専有面積の住戸は、共用部分の持ち分も含めれば、400万円程度の負担になる。50戸のマンションなら、2億円もかかってしまう。

そこで、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の「公費解体」という制度がある。「公費解体」は、災害時には大変役立つ制度だが、そもそも「公費解体」は、災害に関する法律ではなく、平時の廃棄物処理に関する法律が根拠で、役所の窓口も危機管理部局ではなく環境部局になる。運用上の罹災証明が半壊でも、公費解体は可能になるなど、いささかちぐはぐさはある。

さて、全壊し解体が必要となり、かつ長期避難していた場合、公費解体すれば、基礎支援金で300万円が支給され解体費用も発生しないことになる。同じ解体でも、2020年1月に放置され続けてきた区分所有マンションが、空家特措法に基づき行政代執行により解体された。こちらは、1区分所有者あたり1千万円を超える請求ががなされたという。
災害被害と無責任な放置とでは、意味は違うわけだ。

公費解体で未収金をめぐる駆け引き

公費解体は、震災後、1年などの申請期限が限られ行政で受付がされる。また、被災マンション法が適応されると、解体し更地で一括売却するにあたっては、全員同意ではなく、4/5以上で決議できるのだが、公費解体の申請を通すためには、解体時に専有部分に残った家具等は放棄する旨の念書を全員が提出する必要がある。早い話が、解体についても動産の放棄も全員同意が条件になる。

ここから先は、多分に仮説的事案として読んでいただきたい。

ある管理組合で、1名の区分所有者が長期滞納し、その額が300万円程度あったとしよう。未収が解決しないまま、ある日、大きな地震が来て建物は全壊した。管理組合はマンションの再建をあきらめ、解体し土地を一括売却する旨の決議を行った。

震災直後は、区分所有者がどこに避難したかを探し出すのに手間取り、解体を決める総会は、震災の10か月後だった。総会では、被災者生活再建支援制度における基礎支援金で300万円、また新規に住宅を購入する場合は、さらに200万円が支給されること、また全員で解体を同意すれば、一世帯当たり400万円かかる解体費も公費解体でまかなえることを説明し全員同意で可決された。

しかし、問題はその後だった。長期滞納の区分所有者が、解体は同意したが専有部分に残した家具等の動産の放棄はしない。よって、念書は出さないというものだった。

管理組合としては、基礎支援金の300万円を滞納分として、何らかの手段で差し押さえるつもりでいたが、先手を打って滞納を帳消しにしないなら、公費解体でなく自費解体にすればよい、さあどっちが得か考えろ、という話だ。公費解体の申請期限も目前の状態で、管理組合は頭を抱えることになってしまう。

さて、冒頭にも書いたように、地震はいつ襲ってくるかわからない。日頃の管理運営の中で、やはり滞納は最後の最後まで後を引く。また、避難先がわからず総会までに長期間かかってしまったというのも、ひとりひとりの所在を突き止めるための理事会のご苦労も並大抵ではなかっただろう。緊急連絡先など名簿の管理が的確になされていれば、公費解体の申請期限目前での総会決議も回避できたかもしれない。

私が機会さえあればよく言っている、「生活復興に関わる災害救助法や被災者生活再建支援法などからの支援金制度は、今は学ばなくても良い、今は“備え”や“コミュニティの醸成”、そして確かな管理運営を行うことの方が大切だ。支援金制度は、被災してから行政に行ってしっかり話を聞いてからでも間に合う」とは、そういうことでもあるのだ。

丸山 肇
執筆者丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

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