時代は“With コロナ”。これからの管理組合運営を考える

理事会・総会
時代は“With コロナ”。これからの管理組合運営を考える

令和2年4月7日。東京都・大阪府など7都府県に対し緊急事態宣言が出され、4月16日には対象が全国に拡大された。

今日現在(2020年8月21日)すでに緊急事態宣言は解除されたがウイルスがなくなったわけではない。ワクチンや特効薬が開発されない限り、再び第2・第3の波が来そうだ。

学校の卒業式・入学式が中止になったことで浮上した、世界標準に合わせ入学を4月から9月に変えようという案。それだけでなく休校を余儀なくされ、子どもたちが学校へ通えなくなる事態に。飲食店は休業や廃業に追い込まれ、名店・老舗も残念ながら姿を消すという、まさに異常事態が起きた。

緊急事態宣言解除後は、新宿や池袋の夜のビジネスに関わる多くの方に陽性が確認され、またカラオケ店や介護施設などでクラスターが発生している。やはり生活の仕方、遊び方、これまでの通常を返上し、改めて見直すことを余儀なくされている。
ワークスタイルも同様。とはいえ、リモートワークができる職種は良いが、現場を預かるマンションの管理員や清掃員はリモートワークというわけにはいかない。管理組合のご理解を得て、休務や時間短縮を模索していくことになる。

収束したとしても“With コロナ”の時代は続くだろう。まさにコロナがなした禍(わざわい)を超えて、心の在り方、仕事の仕方、家庭での過ごし方、イベントのあり方など、変えるべきことはしっかり定着させなくてはならない。進化の分岐点ということでもあるのだろう。

働き方が変われば、暮らし方も変わる

リモートワークが可能な職種の方に限っての話ではあるが、リモートワークは、不要不急の外出を避けるためには有効な手段だ。会議はネットワークにつないでTVで済ませられる。遠隔を意識すれば事前準備や打ち合わせのポイントをはっきりさせておく意識も高まる。だらだら進む会議をより効率の良い、合理的な会議に変えていくチャンスでもあるだろう。データ共有も社内ネットワークやクラウドが整っていれば、会社にいるのとなんら変わらない環境が確保できる。

昭和の働き方から抜け出せない中高年諸氏の中には、会社に行かないことの不安や罪悪感が先に立ってしまう人もいるかもしれない。しかし、2時間・3時間の往復の通勤時間を健康や家族との対話の時間に使える。この健やかさを実感できれば、リモートワークが当たり前になる時代がくることは間違いないはずだ。そしてこれからは、一杯飲み屋に立ち寄ることもなく、自宅に書斎を確保したり、それができないなら自宅近くにワンルームを借りる動きもでてきそうだ。月に数回会社に行くだけなら、いっそのこと田舎に転居し自然と触れ合う生活を考える人も出てくるかもしれない。

働き方が変わるとは、暮らし方も変わるということなのだ。

マンション管理の「変革」は可能なのか

多くの管理組合でも、総会や理事会が延期された。管理組合は3月末決算が多く、5月・6月あたりに総会が集中する。しかし、今は決算理事会を開催しようにもできなかったところも多かっただろう。

さて、マンションコミュニティでは、今後どんな“With コロナ”を模索していくべきなのだろうか。
コロナ禍がいったん収まっても、コロナとの共生時代は続く。社会的距離(=ソーシャル ディスタンス)は、エチケットの基本になる。マンションの場合、専有部分で家族だけで過ごすにしても、行動範囲はそれだけでは済まない。神経質になりすぎることはないが、ゴミ出しに行くにも共用廊下やエレベーターで他の住民とすれ違う。エチケットやディスタンスの取り方が求められることになる。

マンション内でクラスターを発生させるわけにはいかない。エレベーター前に「3名以上での乗り込みはご遠慮ください」と張り紙をしたマンションもある。エレベーターは常時換気扇が回っているとはいえ、人との距離を保てない閉鎖空間。感染リスクを考えれば、張り紙の意図も十分理解できる。エレベーターの重量定員ではなく、コロナ定員ということなのだ。

マンションのエレベーターの乗り方も、混み合いを避け、お先にどうぞとか、何人乗っているかなどをかご内の画像を確認して呼びボタンを押すことがエチケット、といわれる時代になるかもしれない。そのうち、今までのような重量で扉が閉まらなくなるのではなく、何人乗ったかを AI(人工知能)が感知し、一定以上の人数になったら、呼びボタンが押されていても通過してしまうような仕組みが組み込まれるかもしれない。また、通常は基準階である1階に設置することが多いかご内を映し出すモニターが、各階に設置されてもオーバースペックとはいわれない、それがあたりまえのマンションの仕様になるかもしれない。

いささか、妄想ぎみかもしれないが、コロナを教訓に行動が変わっていき、今までとは異なる考え方や常識が浮上するだろう。それが、“With コロナ”、またはコロナによる“価値観の変革”ということなのかもしれない。

コロナ禍から得た“気づき”と“行動の変化”

ある大型マンションで、4月から8名の清掃員を4名に減らした。出勤回数を減らして、従業員も住民にも、感染リスクを抑えたいのは管理組合・管理会社、双方の想いだろう。もちろん、会社からの待機指示となるので清掃員には給与を支給する。人を減らした分の委託費はどうするかは、ケースバイケースだとは思うが、このマンションでは管理組合からの指示に基づき減員した。

前出のマンションには、100本近い桜が植えられている。減員体制がスタートしたのは、ちょうど花びらが散るシーズン。毎日、落ちた花びらをきれいに清掃していたが、今年は手が回らないらしい。しかし、淡いピンクの花びらが、マンションの敷地一面を覆う素敵な光景が広がった。マンション内の花見会は中止されてしまったそうだが、花びらの絨毯を散策するのも、おつではないか。

週1回、もしくは花びらのシーズンが終わったころに、植栽の職人さんにブロアー(電動式などで強い風で落ち葉などを吹き飛ばす清掃機械)で、まとめて清掃してもらった方がむしろ効率は良さそうだ。

植栽の水やりでも大きな変化があった。敷地が広いこともあり、自動散水装置を外構工事の一環で敷地に張り巡らせていたが、一部、散水装置が設置できない地被類が植えられた場所やプランターへの水やりが必要になる。夏場は毎日、気温が上がりきらない早朝から8時までに水やりを終えてしまうのがベストだ。しかし、勤務時間を考えれば清掃員や管理員では難しい。そこで、シルバーセンターから近隣に住まう高齢者を派遣してもらっていたが、コロナの自粛で人が来なくなってしまった。

シルバーセンターから人が来なくなった翌日から、マンション住民による水やりが始まった。広い敷地の中で数人が距離を取りながらの水やりなので問題はない。つぼみが膨らみ花を咲かせる、芽を吹き葉が茂る、そんな草木との対話を楽しみながら水やりができる喜びをもっと早く知ればよかったという。

春には桜の花びらを、秋には落ち葉を、毎日清掃してもらうことが、今までの当たり前だった。花びらや落ち葉の絨毯を風情としてとらえる視点が芽生え、また自ら水やりを行うことで草木の息吹を感じる喜びを発見した。IT化やAIを活用したソリューションも大切なのだが、この心につながる行動変化が、Withコロナを受け入れるためには欠かせないのだろう。

管理組合のIT化は

区分所有法第45条に「電磁的手法~」が付け加えられたのは、平成15年のことだ。まだまだ歴史は浅い。用意周到な管理組合では法律改正にあわせ管理規約の見直しを行ったところもあると聞くが、実際のところはあまり浸透していない。政府のIT化推進策の一環で標準管理規約等が改正された動きもあり、管理組合が必要性を迫られていたとはいえないだろう。ましてや一定の築年を経てしまえば、マンション住民も高齢者が増えIT化は敬遠されやすい。

しかし、今回は理事会が開催できない、総会が延期されたケースは多い。こんな状況が続くとするなら、管理組合運営がままならない状況に陥ることは確かだ。ただでさえ、理事のなり手不足や参加意識の低さなどが課題になりやすい管理組合運営でもある。3密を避けながら、理事会で中身の深い議論を行い、住民全体が賛同できる総会への道筋を考えなくてはならない。

最近はクラウドで情報共有しながら理事会を行う仕組み(WEB理事会)もある。議題ごとに資料の添付ができ一定期間中に質問や意見を集め、賛否を投票できる仕組みで管理組合の理事会用にグループウェアを開発したものだ。もちろんITに弱い人もいるだろう。この仕組みを使いつつリアルの理事会を開催してもいいのだろう。どんな質問や意見が出ていたかなど、理事会の場で再確認すれば、この仕組みを使っていない人も情報共有ができ、かつリアルの理事会も短時間でスムーズに進行できるようになる。

例えば、全員マスクを着け、2メートル程度のディスタンスを取り、換気の良い部屋で、1時間程度という制限の中で、理事会を開催するということになるだろう。広い集会室があるマンション、また近くの公民館で広めの会議室が借りられるなら可能だろうが、なかなかそんな条件が揃うとは限らない。狭い管理事務室やエントランスのちょっとしたスペースにパイプ椅子を押し込んで、肩をぶつけながら理事会を開催しているケースも少なくはないのだ。

いずれにしろ、“With コロナ”の時代になって、管理組合運営をどう進化させるかという意思の問題なのだと思う。WEB理事会などの IT ソリューションありきの話ではなく、進化させようという意思があって初めて道具を使いこなせるようになる。人類が火を使い始め、また石で斧を作ったのと同じプロセスなのだ。進化させようという意思が大切なのであって、最初にソリューションありきではないということは肝に銘じておきたい。

もう少し拡大していえば、マンションコミュニティも同じ。お花見会や餅つき大会、クリスマス会など、“集い型”活動は難しくなる。マンションイベントでクラスターが発生などというニュースは聞きたくはない。多くの方はこの手のイベントが、コミュニティ活動と思っているのだが、これらもひとつの手段でしかない。

コミュニティにも“お祭り型コミュニティ”と“問題解決型コミュニティ”というのがあるという。決してどちらかを否定するという意味ではないが、今までのやり方を毎年踏襲し楽しければそれで良しというものと、意志を持って解決させ進化をしていこうというコミュニティの在り方であるはずだ。この話は、また別の機会にコラムとしてまとめていきたいと思う。

丸山 肇
執筆者丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

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