2020年6月16日「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(以下、適正化法)と「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」(以下、円滑化法)を改正する法律案が閣議決定され、国会で可決された。
今回の改正の目的を一言でいえば、マンションの高齢化が進む中、建替え等の緩和措置に加え、管理組合運営への行政の関りを強める施策の実行ができることにある。
マンションの高齢化 その背景とは?
築40年超のマンションは、すでに81万戸以上となった。10年後には約2.4倍の約198万戸、20年後には約4.5倍の約367万戸となってしまう。日本の分譲マンションの戸数が約655万戸(平成30年末国土交通省)だから、現時点では40年超えは12%程度になる。毎年8万戸ずつ新築マンションが増えると仮定すると20年後には全体で815万戸になる。367万戸が築40年を越えるとすると、日本のマンションの約半数が築40年超の高齢化を迎えることになるのだ。
「古くなったら建替える?いやその頃にはとっくに転売して住み替えているはず」と、他人事としてマンションの需要と供給がマッチした結果が、現在の総ストック655万戸ということだ。
ご存じの通り、住み替えするつもりで購入しても、購入者の多くは永住派に転向する(国土交通省による平成30年マンション総合調査では62.8%が永住を希望)。35歳で入居した人も40年が経過すれば75歳となるわけだ。建物も人も年を取り、年金での収入だけでは、いくら工面しても建替えの資金は捻出できないだろう。
そもそも、建替えとは、今ある建物を取り壊すところから始まる。取り壊す費用に新たに建てる費用が、ダブルでかかることに加え、建替え期間の仮住まいや2度の引っ越し費用などが必要で、現状よりも多くの部屋が確保できその分を再建築費に充てられるなど、よっぽどの条件がそろっていなければ、75歳からの住まい再生計画は難しいのだ。
積立金が不足し大規模修繕工事を思うように実施できない、総会を開催しても委任状を含めた出席者数が定数ギリギリ、役員のなり手を探すのも大変というマンションも少なくはない。資金不足、管理運営の停滞、そして老朽化と、再生に向けての活力は、どんどん失われていく。すべてのマンションが、そのような管理不全へ突き進むとはいわないが、時間と共に老朽化したマンションが増え続ける。見過ごすことのできない社会問題なのだ。
行政代執行で解体されたマンション
改正を予定されている適正化法や円滑化法ではなく、空家等対策の推進に関する特別措置法(平成27年施行以下、空家特措法という)に関連する話をしよう。
行政のホームページに必ず掲載されているのが、空家の相談窓口。東京都区部10.4%、大阪市17.1%と空家率の高さは都市部でも深刻だ(2018年住宅・土地統計調査_総務省)。
適切な維持管理が行われず放置された空家は、周囲にさまざまな悪影響を及ぼす。木造の戸建てをイメージしがちだが、不健全な空家住戸がマンションで発生してしまうと、管理費等の未納リスクや管理不全につながる要因になる。また、マンション全体が空家になり、老朽化による壁の落下や防犯面など、地域へ多大な悪影響を与えることもある。空家特措法は、空家による防災・衛生・景観等の地域住民の生活環境の悪影響から、地域住民を保護するための法律だ。
倒壊の恐れなど、放置が不適切とされた空家を“特定空家”として、行政代執行により除去することができることを定めた法律だ。
この行政代執行で、令和2年1月に解体されたマンションがある。滋賀県野洲市にある「美和コーポB」だ。一部屋40㎡にも満たない9戸の小ぶりのマンションだが、老朽化した外壁の崩落や有害なアスベストを周囲にまき散らすなど、地域住民にとっては危険で衛生上の問題のある空家マンションだった。市は、およそ1億2,500万円の補正予算を組み解体に着手。もちろん、この費用は後日、所有者に請求されることになる。
2010年にアスベストの飛散防止措置勧告がこのマンションに出されてから、10年を経過しての解体だった。
円滑化法の改正とは?
解体されたマンションの例は、所有者責任と言ってしまえばそれまでだが、釈然としない思いに駆られてしまう。建物を解体し更地を売却して処分するのは、4/5で決議できる建替えと異なり、持ち主の100%の同意が必要となる。
仮に所有者の居場所がわからない住戸があったとしよう。管理組合で所有者を見つけ出さない限り何事も前には進まないのだ。築40年が経過したマンションで起こりうる問題としては、所有者の高齢化だけではなく、死亡、相続放棄、行方不明など、厄介な事情がマンションに降り注ぎ、にっちもさっちもいかなくなる。区分所有建物という一つの建物に複数の所有権が存在している特殊性が、この宿命的な100%同意という難しさを引き込んでいるのは事実だろう。
前回平成26年の円滑化法の改定では、耐震性不足の要除去認定を受けたマンションは、4/5で更地一括売却が可能になったが、今回の改正では、これに加えて外壁の剥落等により危害を生ずるおそれがあるマンション、バリアフリー性能が確保されていないマンション等が追加される。また、要除却認定を受けた老朽化マンションを含む団地において、敷地共有者の4/5以上の同意により、マンション敷地の分割を可能とする「敷地分割制度」が創設される。
もちろん、建替えの4/5の合意形成でさえ難しいのは事実なのだが、要除去認定以外の要件での4/5への条件緩和は、少しは前に進みやすくなり、釈然としない思いも多少は薄まるのかもしれない。
適正化法の改正_管理計画認定制度とは?
とはいえ、日ごろから管理組合運営が真っ当に進んでいなければ、この緩和策も使いようがない。しかし、今回の改正での最も大切なポイントは、マンション管理に対しての国や行政が、より能動的に関与していこうという色合いが濃く示されていることだ。その3点を簡単にまとめてみよう。
① マンション管理適正化推進計画制度を国が策定する
• 適切な修繕計画が立てられているか
• 修繕計画に基づいて修繕積立金が積み立てられているか
• 総会や理事会など管理組合の活動が円滑に行われているかなど
管理組合の行う管理の適正化を推進するための“基本計画”を国が定める。
② 管理適正化のための指導・助言、勧告などの実施
上記の“基本計画”に基づいて、市・区などの行政が指導・助言、勧告などを行う
③ 管理計画認定制度の実施
適切な管理計画を有するマンションを認定する
管理計画認定制度では、まだ詳細は明らかにされていないが、マンションの管理計画認定制度の要件をクリアし、認定を受けられたマンションに関しては、詳細は不明だが税制上の優遇策などのインセンティブを与える可能性があると言われている。あくまでも私個人の想像に過ぎないのだが、区分所有者個人でいえば、固定資産税の減額、譲渡や取得の際の税金の減額。管理組合単位でいえば、工事などを発注する際の消費税の減免などが考えられる。具体的なことはわからないが、いずれにしても真っ当な管理を進めていくための動機付けとしては十分な価値はありそうだ。
そもそも、戸建ての給排水管は、行政側で各区画まで上下水道を引き入れる手間が生じる。マンションの場合は、マンションの敷地まで給排水管を持ってくれば、敷地内の埋設管、また建物内部の共用部分の給排水管は、管理組合側が引き入れメンテナンスも行う。500戸のマンションでは敷地まで1本で済むが、戸建ての場合は500戸分の建物にそれぞれ行政側で配管を引き入れなければならない。
他にもある。戸建てと比べれば道路の管理も、ゴミの回収も格段に効率が良い社会インフラがマンションなのだ。マンションは行政の投資や支出を最大限節約できる居住形態でもあるのだ。
その社会貢献を管理計画認定のインセンティブで返していただくわけで、またインセンティブをもらうための努力が、より良い管理につながるならそれに越したことはないだろう。
管理計画認定制度は差別化要因にもなる
もちろん認定状況によっては、マンション価値の差別化要因にもなっていく。
認定を受けられたマンションは評価が高まり、有利に売却できる可能性も期待できるだろう。逆に認定を受けられなかった場合は、評価が低下し売却時に不利になるということだ。旧耐震のマンションの売買時の重要事項説明書に、「耐震診断を行った」「耐震補強をした」などと、記載するのと同じことだ。従って、中古マンションを購入しようとする消費者にとっては、中古マンションの重要な評価情報を与える、適正な中古市場の育成にもつながる話だ。
平たくいえば、認定に向けての努力がなされないままでいれば、マンションの資産価値が目減りする。もちろん、そんな状態のマンションでは、その先を考えれば、将来に向けての管理計画を立てられないまま、先にも紹介した行政代執行で取り壊しになったマンションと同様に、“自己責任”と言われても納得せざるを得なくなるのだろう。
マンションを所有した以上は、必ず発生する責任。管理計画認定制度は、そのために何をなすべきなのかを明確に導く制度になるよう、強く願いたいものだ。