一流ホテルさながらのタワーマンションのしつらえ。ステータスの証である。しかし、「買った」「住んだ」がゴールではない。そこからがはじまりだ。タワーマンションには、特殊な機器や設備が満載だ。たとえばタワー式立体駐車場、高速エレベーター、スプリンクラーや泡消火設備、航空障害灯など、一般的なマンションではあまり設置されていない特殊設備がたくさんある。もちろん、これらの設備は日々の点検費用だけはなく、いつかはそっくり入れ替えるなどの更新工事も必要になってくる。タワーマンション一棟に付く特殊な設備。これだけでも億単位の支出を覚悟しておかねばならない。管理組合は、費用のかけ方や改修時期などをしっかり研究し、将来に備え資金を確保しなければならないが、とはいえひたすら支出を抑えお金を貯めるだけでは限界はある。無理を重ねるマンションライフより、かけるべきところにはお金をかけ、将来発生する費用を見込みながら、「管理」という高度な経営を行っていかねばならないのだ。
スタイリッシュなデザイン、高級なラウンジといった意匠演出。これこそタワーマンションの価値だろう。しかしデザインにこだわれば、メンテナンス費用もかさむ。たとえば、マンションのエントランスには吹き抜けの高い天井があり、そこに取り付けられた数々の照明がある。それが球切れしやすく、かつ節電タイプでない特殊な外国製のものであったら、在庫がなければ海外メーカーから取り寄せ、高所作業用のリフトを使って照明の交換することになる。高所作業ができる人材をマンションに常駐させるか、もしくは施工会社等に依頼し、1回の管球交換で数十万円の費用が発生する可能性もある。単なる電球交換がこの騒ぎだ。もっとも今は、省エネで寿命が長いLEDが主流。照明システムを変更することで解決はできるだろう。さて、他にも似たような話はある。エントランスで、ホテルライクな受付をするコンシェルジュの存在もまた、ステータスだ。しかし、あまり往来のない時間帯まで手厚くシフトされているケースもある。窓口のサービス依頼件数を1時間単位でカウントする調査を約2カ月かけて行った。9割近い依頼数に対応できる時間帯を算出してみると、集中する時間帯は限定的。上手くシフトすれば、半分の時間で90%程度のサービスがこなせるケースもあることが分かった。コンシェルジュのサービス提供時間を過剰に設定しながらも、建物の巡回や清掃、設備状態を確認する管理を担う管理員の勤務時間や人数がマッチしていないケースも多い。消防署から人数や時間帯などの指導が入る防災センター要員は別だが、管理上、本来確保すべきサービスを手薄にし、見え方の良さにシフトしてしまっては本末転倒だ。そんな無駄や無理が散見される。管理サービスは販売時すでに決められていることもあるが、引き渡しを受けた後は、管理組合が主体になってマネージメントを行うべきである。管理仕様も管理会社と相談し、どんどん改善していくべきだろう。
タワーマンションでは、一般的なマンションで使われる枠組足場では高層部分まで対応できない。よって、屋上から吊り下げて昇降させる「ゴンドラ」や、建物にレールを取り付けて足場を移動させる「移動昇降式足場(リフトクライマー)」を使うことになる。垂直にまっすぐな壁面なら良いが、建物の壁がオーバーハングしているようなデザイン的なアクセントには、知恵を巡らせて仮設足場を設けなければならない。もちろん、コストもアップする。足場の経費が高いからといって、行うべき補修工事を縮小させてしまっては、本末転倒になってしまう。またタワーマンションの工事は、風に弱い。地上100メートルを超える高所作業は過酷であり、強い風が吹けば、工事を中止しなければならないほど危険なのだ。2008年に、タイルの全面打診調査は、10年を過ぎて最初の特定建築物定期調査までの間に行うことが義務付けられた(特定建築物定期調査が3年ごとなので最大13年)。タイルが超高層部分から落下し、人に当たったらとんでもないことになってしまう。最近のマンションの外壁はタイル張りがほとんどだが、タワーマンションはそのような理由からタイルを貼らずに塗装にしているケースも多い。塗装でも剥離や落下がないわけではないが、大規模修繕工事の修繕周期を延ばすなどの調整がしやすく、工事費の節約につなげることもできる。しかし、全面タイル張りのタワーマンションも存在している。そんなマンションでは、概ね10年から13年毎にゴンドラ等で全面打診し修繕しなくてはいけないのだ。仮に、タイルの全面打診調査を含め12年毎に大規模修繕工事を5億円かけて実施したとする。向こう60年で、5回×5億円で25億円。修繕周期を伸ばしやすい塗装で15年毎に5億円かけて実施した場合は、向こう60年で、4回×5億円で20億円となる。ここに5億円も開きが出てくるのだ。
すべてのマンションでいえることだが、いつ頃、どんな改修をしなくてはならないかを、あらかじめ把握しておく必要がある。そのためのツールが長期修繕計画だ。20年・30年先まで、積立金を改定しなくても賄える設定で販売した新築マンションなど稀。工事コストが割高になりやすいタワーマンションでありながら、積立金が国土交通省のガイドラインから算出された平均値の半分にも満たない設定もある。いずれにしろ、管理組合は「積立金は足りるのか」「値上げの必要はあるのか」、そもそも「精度の高い長期修繕計画なのか」など、しっかり確認しておくべきだろう。タワーマンションに限った話ではなく、将来、困ったことになっても誰のせいにもできない。特に費用がかかりやすいタワーマンションほど、自分自身の資産のためのマネージメントの力が問われることになる。
マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。
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