2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震など、近年の大規模地震によって多くのマンションが被災した。住んでいる建物が無事でも、避難生活ではその地域内、あるいはマンション内で助け合いながら支援を待つことになる。 いざというときのために防災訓練を実施しているマンションも多いと思うが、やり方を工夫してもなかなか参加者が増えないこともあるだろう。学びのある訓練内容だとしても、耐震性のあるマンションでは災害発生後は基本的に建物内で避難生活を送るため、日頃から居住者同士の助け合いを意識しながら訓練ができることが望ましい。そのため、なるべく多くの住民に参加してもらう意義は大きい。 今回は防災について体験できるイベントを、マンションだけではなく、地域の中で多くの住民を巻き込んで実施した事例を紹介する。
親子で一緒に防災に触れる体験イベント 今回紹介するのは西東京市ひばりが丘団地エリアで2018年に開催された防災体験イベント「るるるバザール」だ。このイベントに、地域のエリアマネジメントを推し進める組織「一般社団法人まちにわ ひばりが丘」のスタッフであった私は、運営をサポートする立場として参加した。名前からマルシェイベントかと思うかもしれないが、実は防災イベント。「地域とつながる・仲間が増える・もしもに備える」の末尾3つの「る」をとって「るるるバザール」というネーミングだ。
特徴は、防災をテーマにしながらも多くの人に参加してもらうことを意識している点。地域のエリアマネジメントを推し進める団体「まちにわ ひばりが丘」が主催で音頭を取るが、地域住民が中心となって運営し、子どもも大人も楽しめるコンテンツを用意している。 炊き出し訓練と試食会、身近なものを使った応急手当体験など、防災訓練としては基本的な学びに触れられるものに加え、ひばりが丘エリアの地域団体による物産販売マルシェや、おもちゃの物々交換と楽しくアレンジした防災プログラムを組み合わせた「イザ! カエルキャラバン!」なども防災普及団体と協力しながら開催。 また、サッカーをしながら防災について学ぶワークショップ「ディフェンス・アクション」は、多くの人に集まってもらうきっかけとして一見防災とは関係が薄いサッカーを取り入れた工夫を凝らしたプログラムだ。social football COLOが実施しているコンテンツであり、子どもたちが多い住宅地エリアではボールを使ったゲームなどは人気が高いようだ。 このようにイベント全体として、楽しみながらいつの間にか災害への備えも学べることを意識している。
安心できる暮らしを目指して、住民同士のつながりをつくる
るるるバザールは、近隣のマンション住民を含む地域の住民有志「TEAMひばりが丘」が運営している。 今回のイベントのコンセプトは、「安心できるくらし」だ。しかし、地域の現状を考えたとき、以下のような課題が挙がってきた。 ●住民同士の継続的な接点となる場がない ●場づくりの主体がいない ●地域組織との接点を持つきっかけがない ●防災に関心はあるが、街での暮らしの中で知識を得る機会がない
こうした意見を踏まえ、多くの方が参加する防災イベントを開催することを選んだ。 事前にイベント打ち合わせを兼ねた防災学習会も開催され、趣旨説明やコンテンツの体験、そして避難生活に関する知識も学べる機会も作った。住民や近隣団体、協賛企業などから80名弱が参加し、参加した方も「仲間づくりができるから」「行けば友人に会えて楽しいから」などと理由を話す。ただのイベントとしてではなく、地域の関係づくりにも寄与できた。また運営サポートの立場から見ても、住民が中心となって実施したことにより、災害に対する当事者意識が育まれながら、大人も子どもも学びのある時間を過ごすことができた。 実際の被災時には、マンションだけで閉じた避難生活を送るのではなく、近隣住民や団体と連携しながら情報を集め、助け合うだろう。そのためには、日頃から地域との接点があることで安心できる暮らしに近づけるはず。まずは小さくても、マンション内防災訓練で地域連携を考えてみてはどうだろうか。