オートロックに防犯カメラーーセキュリティを備えた最新のマンション。
専有部分の玄関ドアには、破られづらいといわれるディンプルキーを採用し、かつ2重ロックが一般的な時代。しかし、それでも空き巣の被害はおさまらないというから、心配は尽きない。
昨今ではストーカー問題など、一昔前とは異なる新たな犯罪も出てきた。セキュリティシステムで強化しても、これでは巧妙な犯罪者とイタチごっこだ。
隣近所と疎遠な都会のマンションでは、誰がいつ侵入してもわからない。特に侵入犯は事前に十分な下見を行うという。しかし、その下見の最中にマンション住人から「こんにちは」「どちらまでですか」などと声をかけられるような、近所力の高さがあれば侵入を断念するともいわれている。コミュニティのあり方や心構えも含め見直す必要はありそうだ。
今回はあらためてマンションの特性を理解し、どんな用心や配慮をしておくべきか、原理原則からおさらいしてみよう。
犯罪者の心理になってみる
金か、物か。何を目的にするかによっても犯行の手口は異なる。たとえば、部屋に忍び込み金目の物を盗む侵入犯、駐車場からカーナビだけでなく車そのものを持っていく車両窃盗犯、住戸の鍵穴にボンドを注入し鍵を差し込めなくする悪質ないたずら、また子供や女性を狙う痴漢や暴漢などの犯罪がマンション内では起きており、犯罪ケースは多岐に及ぶ。
当たり前だが、犯行は見つからないように行われる。「発見機能」という意味では、防犯カメラを挙げる人もいるだろうが、防犯カメラは“犯行の瞬間”を発見できない。録画データによりどんな人物が侵入したかを確認するためのもので、防犯上の機能分類としては、“捕まってしまうかもしれない”と思わせるための「威嚇機能」にすぎない。
プロは、威嚇機能などにはびくともしない。防犯カメラのスペックを熟知しているからだ。エントランスや駐車場など侵入ルートに設置しても、実は画素数が少なく、わずか2メートル離れただけで顔を認識できないほど性能が低いものが多い。いたずらなどを威嚇するだけならダミーカメラでも効果はあるが、プロは犯行前に下見をしっかり行い防犯カメラのスペックも調べ上げる。プロに対しては、性能の低いカメラでは意味がないのだ。
技術の進化は早く、かつカメラなどのIT機器はどんどん安価になっている。今までの契約を解約し、最新の高画素数のカメラを導入したほうが、スペックが向上しレンタル費用が安くなるケースもある。見直しをかけるポイントであることは間違いない。
また、防犯カメラを「発見機能」にバージョンアップさせる技術も登場している。画像解析システムだ。防犯カメラの撮影範囲をあらかじめ指定し、人が侵入した、車が勝手に停められた、荷物や人が倒れこんだなどの情報が、自動的に解析され画像を警備会社のセンターに転送。センター要員が目視確認し遠隔で退去を命じる声を流し、同時に警備員が急行するという仕組みだ。
現場を押さえ、リアルな声で威嚇するとは、最も効果的な防犯対策だ。犯罪心理上に有効なのは、音声やサイレンなどの“音”、そしてライトなどの“光”だといわれている。防犯カメラとセットにして設置されるセンサーライトは、その効果を狙っているというわけだ。
「発見機能」の代表格は、専有部分向けのホームセキュリティだろう。
ドアや窓などの開口部分にマグネットスイッチや人感センサーを設置するなどして、留守宅の侵入犯の存在を警備会社に自動通報し、警備員が飛んでくる仕組みだ。警備員は預かっている専有部の鍵を使って対応を行う。非常ボタンを押すことで、急病などの時も救出してもらえる。問題はコストだが、個別に設置すると月額5千円程度かかってしまうが、マンションでは一般的なインターホンシステムを利用し、後付けでもマンション全体で導入することができる。その場合は、1/10程度のコストで導入できる場合がある。
犯行の手口から考えるマンション防犯の鉄則
ディンプルキーも2重鍵もドアの「侵入阻止機能」の代表格だろう。しかし、絶対に開けられない鍵ではない。一昔前に主流だった古いタイプの鍵の場合は、プロにかかれば10秒程度で開錠できてしまう。ディンプルキーも開けづらくなったとはいえ、数分あれば開けられるという。犯行は時間との勝負だ。数分の間に通りがかりに人に見つかるリスクを恐れ、敢えてやらないだけで、その気になれば可能なのだ。その目安は5分間といわれている。
2重鍵を開ける時間を節約するためにサムターン回しも流行った。しかし玄関ドアの薄いスチールに電動ドリルで穴を開けるのはいとも簡単だ。金属棒を差し込みサムターンを回し開ける手口。乱暴にもバールでドアをこじ開ける手口などもある。幸いにも最近はサムターン回し防止機能やこじ開けらづらい機能のついたドアなど、防犯基準であるCP認定を受けたものがある。古めのマンションでは、大規模修繕時などに管理組合全体でより防犯性能の高いドアに交換する必要もあるだろう。ちなみに、CP認定とは、5分以上の侵入阻止ができるものをいう。
と、ここまで話したが、実は侵入犯で最も多いのは「無施錠」だという。マンションにはオートロックもあり、ゴミ出しに行くだけのほんの5分程度なら、と考えるのは甘い。十分な下見の上、犯行はなされるのだ。あの家はご主人や子供たちを送り出してから、いつも鍵をしないでゴミを出しをするなどはすでにお見通し。お隣はご夫婦で朝早くから仕事に出かけているとなれば、ゴミ出しにでた家に入り込み、バルコニー側にでて留守宅の隣のバルコニーへ。窓ガラスを割り侵入する。窓ガラスを割ればガチャンと大きな音が出るだろうと思うのはまちがい。ガムテープなどで窓のクレッセント周りを保護し、ガラス切りで手首が入る程度の穴を開けるだけなのだ。クレッセントさえ開けてしまえば、サッシュを開けて侵入でき、犯行後は堂々と玄関から帰って行くのだ。
まさに「無施錠」「ガラス割り」など、バルコニーでつながったマンションの特性を利用した手口なのだ。
オートロックがあるとか、ほんの数分だからという心の隙や近所力の希薄さに付け込んだ手口が一番怖い。また、時間帯も人が部屋にいる夜間ではなく、朝の時間帯が一番多いことも理解しておこう。
エレベーターに注意! 乗り込んできた男の手口
あなたの自転車。マンション名が書かれたシールを貼っていないだろうか。
自転車管理のために使われるシールだが、マンション名の有無は整理に関係ないはずなのに、そんな運営がなされているケースは多い。
駅の駐輪場で女性用の自転車に目をつけ、その自転車を使っている一人住まいの女性を探し出すのはたやすい。その自転車に乗っている人が、どこのマンションに住んでいるかがわかれば、マンションで待ち受け、共用廊下を眺めていれば、何号室か、いつ頃帰ってくるのか、家族はいるのかいないのかもすぐにわかってしまう。
そんな下調べを行い、犯行時、例えばこんなやり口になる。
女性がオートロックを開けた後に一緒にマンション内に入って来る“オートロックの共連れ”という手口だ。また、エレベーターにも一緒に乗り込むのだが、女性が押した階ではなく一つ下の階のボタンを押し、犯人はそこでエレベータを降りる。この段階で、一緒に乗り込んできた男に対しての警戒心はなくなってしまうのだが、男は非常階段を登り、女性が玄関の鍵を開ける後ろから静かに迫り、鍵を開けた瞬間に一緒に部屋の中に侵入してしまうのだ。
サスペンスもののドラマのようだが、これが実際の手口。
問題点は3つほどある。
1.自転車シールにマンションを特定する情報が記載されている
2.オートロックの共連れに警戒していない
3.エレベーターの防犯カメラでは、鍔(つば)の付いた帽子をかぶっていれば顔は判別できない
最新の防犯機能、発見・威嚇・侵入阻止が付いているには越したことはないが、防犯は住む住民の心構えや近所力次第ということなのだ。