新築マンションに入居し半年。「設立総会」が開催され、各階部屋番号の末尾「1」の部屋から順に管理組合の役員となることが決まった。輪番制だ。
初めてマンションを購入したあなたは901号室。「管理組合の役員なんて初めて。管理組合運営ってなにをすればいいの?」と思いつつも、「まあ、管理会社がサポートしてくれるだろうから、なんとかなるはず」と、軽い気持ちで役員を引き受けた。
管理会社の担当者から、「これを読んでください」と『役員の役割』が書かれた資料を渡される。そしてその担当者は続けて「まあ、新築ですから、あまり問題も発生しないはずなので、気楽にやってください。あとは役職をみなさんで決めていただければ今日は終わりです。私は、別の理事会があるのでここで失礼しますね。手続きがありますから、理事長が決まったら連絡ください」と、次回の理事会の日程も決めずにそそくさと離席してしまう。
それを聞いて心なしか安堵し、「そうよね、初年度だし問題もないことでしょう。すでに半年経過していて任期も1年じゃなくて半年だし」と妙に納得してしまう。そして、あなたは、くじ引きにより理事長職を引き当てた。
築1年目のマンションの管理組合は“楽”!?
「次回の理事会の日程も決めずにそそくさと離席してしまうようなフロント担当者だからなぁ。忙しいのかな。どうもしっかりサポートしてくれそうもないな」と、不安を感じつつも、短い任期中に問題がなければ別にかまわないと、変な心理バイアスがかかってしまうのも人間の性。
果たして、本当に問題なく、“楽”に過ごせるのだろうか? 答えは、NOだ。新築マンションほど、「問題」は発生しやすく、またやるべきことは多いのだ。
町会との連携や、居住者のマナーに関するクレームなど、フロント担当者がしっかりやってくれれば、ある程度は何とかなることもあるが、それ以外にもさまざまな問題がのしかかってくる。そんな新築マンションの問題を紹介していこう。
そもそも、「設立総会」って何?
新築マンションに入居し、引き渡し後、3カ月目以降に「設立臨時総会」が開催されるのが一般的だ。これが初めての総会と思われがちだが、実は2回目にあたる。1回目はすでにマンションの契約会等の後に「書面総会」が済まされている。あまり記憶に残ってはいないと思うが、マンションを購入した全員が、管理会社をどこにするとか、設立臨時総会まで管理会社が管理者となる、などが書かれた紙に記名押印して提出している。それが引渡し前に区分所有者になることを予定しての区分所有法第45条に基づく書面総会というものなのだ。
マンションを引き渡せば区分所有関係になることを予定し総会がなされる。引き渡し後は、管理者である管理会社が設立総会の開催を招集し、区分所有者の中から役員等を決め本来の管理者の役割を区分所有者側に引き渡す、例えて言えば「大政奉還」がなされるのが「設立臨時総会」だ。
半年が経ち、そろそろ1年になろうというのに設立臨時総会がなされないケースもあるようだ。売れ残りなど未販売住戸が多い場合などは致し方ないこともあるが、基本的には一通り引越しが収まった段階で、管理会社は設立臨時総会を開催し理事会を立上げ、管理体制を整える必要がある。
第1期の理事会は、2期以降の適正な予算案の基礎を作るなど重要な仕事も多いわけだが、半年以上経過してからでは、何もできずに終わってしまうことになりかねない。管理会社によっては、そんなことを配慮してか、1期を12カ月+3カ月の15カ月の変則決算として、1期もフル1年理事をやってもらうなど、決算月の調整しているケースなどもある。
空き駐車場が多くて、初年度から管理費会計が赤字
駐車場収入のすべてを管理費会計に入れて採算を取っていたものの、見込み違いで駐車場が7割程度しか契約されず管理費会計が年間で数百万円の赤字になるケースがある。売主としては販売しやすいように駐車場収入を管理費会計に全額入れて、少しでも管理費を安く見せたいのが本音だ。本来なら駐車場の空きリスクは考慮すべきで、余剰が出れば積立金に振り替えれば良いだけのこと。将来の消費税の増税や物価上昇、経年と共に増えていく修繕費にも耐えられるように、運転上の余力をうまく残すことの方が、管理組合にとってはありがたい話なのだが、この辺は売主やその系列の管理会社の考え方次第ということになる。
さて、この場合、売主に未来永劫、補填し続けろと迫っても、それは無理な話。設定した駐車場料金が相場であり、駐車場の付置率が常識的な範疇なら、たまたま駐車場を利用する人が少なかったということであって、売主が責任を取るべき話とはいえないからだ。空き駐車場対策は、20年・30年と経験を積んできたベテランの管理組合でも、頭を悩ます問題だ。入居してすぐに管理収支を見直したり、空き駐車場対策に取組んだり、場合によっては管理費の値上げも考えなくてはならないケースが出てくるのだ。
フロント担当者が頼りにならないようなら、理事長のあなた自身に判断が委ねられる。管理仕様を落として節約する、駐車場を外部に貸す、管理費を値上げする、いずれにしても、第2期の定期総会でこうなってしまった経緯と対策案の説明責任を持つのは、一義的には理事長のあなたということになる。
アフターサービスって、どうすればいいの?
もう一つは、アフターサービスだ。共用部分では、例えば、植栽の枯れは1年。建物の完成に合わせて木を植えたりするものだから、本来の植樹の季節でシーズンに植えたり、土壌が良くなく根付かないまま枯れる。また、日光が必要な種類の木を建物の日陰に植える、夏に熱風・冬に冷風が常に噴き出している室外機の傍に植えてしまえば、枯れるのは当たり前だ。立ち枯れは、日常管理の水やり不足だけではないのだ。理事会としては、植え替えや立ち枯れ対策を依頼しなければならない。
植栽以上に大変なのが、建物自体のアフター保証だ。引き渡しからまもなく、半年目にはアフターサービス点検が入ってくる。主に専有部分が中心になるが、重要なのは2年目のアフターサービス点検。専有部分だけでなく共用部分の補修の進捗を確認したり、新たに指摘したりと大忙しになる。2年目なら、初年度は関係ないと思われるかもしれないが、半年点検での補修状況など、住民から不満が湧き出ることがある。共用部分では、開放廊下側に水たまりができる、コンクリートのひび割れから白華現象が出ている、侵入防止の柵が低くて意味をなさないなど、さまざまな指摘があがる。大型マンションでは、共用部分の指摘事項が1千件を超えるケースもある。
アフター保証の対象かどうかを判断し、整理する作業は難しい。すべて売主を信頼しきってお願いするでも良いかもしれないが、ホームインスペクションというジャンルの専門コンサルタントにお願いするケースも最近は増えてきた。どんな体制で取り組むかをあらかじめ決め、コンサルタントに依頼するとなれば理事長のあなたは、第2回定期総会に向けて議案化する必要もあるのだ。
前向きに楽しく、大役を務めよう
引き渡し当初、第1期の理事長の仕事は実は大変なのだ。パートナーである管理会社がしっかりとサポートしてくれていればなんとか乗り越えられるだろうが、冒頭にあげたようなフロント担当者では、ストレスは増すばかりだろう。
築3年以内に早くも管理会社をリプレイスしようという動きになるケースも決して少なくはない。多くが「大政奉還」の遅れや管理会社側のその後のフォローの稚拙さが原因になっている。
リプレイス自体、管理組合の役員としては相当なパワーが必要になる。本来なら、うまく手を取り合って良い信頼関係を築き乗り越える方が得策なのだが、1年目の仇花が、2年目3年目にリプレイスになってしまうわけだ。
誰かが理事長や役員にならなくてはならない。それが区分所有建物であるマンションの宿命だ。また、知らない振りをしても、さまざまな問題は湧いてくる。どうせなら、前向きに楽しく大役を務めていただきたい。