自主管理を続けて行くには、秘訣がある

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自主管理を続けて行くには、秘訣がある

会計管理はもちろん、日常清掃も順番を決めて自分たちで行う。設備点検の発注から理事会・総会の段取りもすべて自分たちでやる。マンション管理のために時間や労力を惜しみなく提供し、さまざまな努力で切り盛りしている。

そんな自主管理マンションには敬服する。

自らの財産や生活環境を確保するための弛まぬ住民努力や団結力は、管理会社に任せきりで管理に関心が薄いマンションと比べれば、はるかに価値の高いコミュニティだろう。とはいえ、近年、自主管理を行う管理組合は少なくなった。以前は3割以上も占めていたが、平成25年度では10%程度にすぎない少数派になってしまった(国土交通省 マンション総合調査)。

一番の理由は、高齢化に伴う理事などの人材不足。そしてマンションを取り巻く環境変化についていけない状況もある。個人情報保護法、耐震改修促進法や建築基準法などの管理に関わる法律の見直しや複雑化。民泊やシェアハウスなど、今まで考えてもいなかった新たな課題も浮上している。タイムリーに新しい知識を吸収しなくてはならない。マンション管理そのものの専門性は増しているのだ。

一番の解決策は、意欲的な若い世代につないでいくこと。

さて、この「つなぎ」の対策については「高経年マンション」のジャンルで議論することとして、自主管理に見受けられるいくつかの問題にスポットを当て、長続きの秘訣を考えてみよう。

自己流の「お小遣い帖]管理

自主管理マンションの決算報告でよく目にするのは、金銭の出入りの収支報告書のみで貸借対照表がないケースだ。今まで出会ってきた自主管理マンションの半数程度は、この単式簿記で会計を行っている。

例えば、未収金は収支報告書では表現されない。入ってきた管理費の額と期初に立てた予算との差を見ればわかるとか、欄外などに未収金〇万円と注記しているから大丈夫という人もいるが、いずれにしてもわかりやすく財産内容を管理組合員に報告するためには、会計の原則通りに作りこむべきだろう。

会計は「発生主義」が常識。例えば、5年分を先払いする保険料では、当年度分の保険料と来年度以降に先払いした保険料とでは会計報告上の扱いは異なる。当年度分は支払ったお金として損益計算書に、来年度以降のため保険料として保険会社に預け入れたお金は貸借対照表に「預け入れ金」として区分されて報告されなくてはならない。支払いが発生したか、預け入れ金が発生したかの区分を明確にするのが「発生主義」だ。そのためには複式簿記でなくてはいけない。現金の出入りだけで管理してしまうと5年分の先払いした保険料を1期のうちに5期分をすべて支払ってしまったような記載しかできない。

単式簿記は、「お小遣い帖」と同じで、現金の出入りだけの帳簿。一方、複式簿記は現金の増減だけでなく、未収債権や預け入れ金という資産、未払い金のような負債など、管理組合の財産の状態が一目瞭然になる。

10世帯程度でも数千万円、100世帯を超えるなら管理組合の資産は、億の単位となる。管理組合員に向けての説明責任を考えれば、億を超える金銭を「お小遣い帖」で管理してしまってはいけない。

積立金会計はあるが、積立金を徴収していない変なしくみ

会計を管理費会計と修繕積立金会計に区分はしているのだが、実際には管理費等のすべて管理費会計に入れてしまい、年度末の管理費会計の決算で生じた余剰金を積立金会計に振り替えているケースがある。標準管理規約では、「管理費等(①管理費 ②修繕積立金)を管理組合に納入しなければならない」と記載されているのみだ。

入金段階から管理費会計と積立金会計に区分して経理しなくてはならないとは、確かに記載はされていない。しかし、積立金の取崩しが総会決議事項だ。入金時点から区分して経理していなければ、管理費会計の支出が膨らんだら、総会にかけることなく資金繰りに合わせて積立金を取り崩してしまうようなことになりかねない。

また、管理費会計の決算を終えなくては余剰金が確定しない。計画的に積立てられるべき積立金が成り行きでしか管理できないことになる。

先に述べた複式簿記という手間を省きお小遣い帖での運用を行うのと同じで、管理費等を月次で管理費と積立金の2つの会計に区分し経理する手間を省いた結果だ。

自主管理のリスクは、会計だけではない

管理規約や区分所有法には、確かに「複式簿記」でなくてはならないとか、管理費と積立金は「収納段階から別に経理しなくてはならない」とは書いてはいない。しかし、書いていないから、「会計原則」や「積立金の目的や趣旨」を無視していいわけではない。自主管理の道を選んだが、原則から外れ過ぎてしまっては、後々、困ったことになりかねない。

自主管理の管理組合が、いざ、人材不足などの理由で管理会社に委託しようとしても、このままでは、管理会社からは「対応できません」と辞退されてしまう。

実は、会計だけではない。他にもいくつもある。

度重なる管理規約の改正を行った結果、至る所で不整合が生じているようなケースだ。例えば、区分所有法の強行規定を管理規約で緩和した。団地なのに単棟での規定としてしまったなど。立ち返る判断基準があやふやでは、管理会社も対応できない。

管理組合が雇用する管理員等の労働条件が法に抵触しているような場合もある。例えば、住込み管理員が昼間も8時間働きながら、さらに深夜0時にゴミ置き場の鍵を開け、朝5時に開錠する業務があるなど。週労働時間が40時間を超えているケース。最低賃金を下回る賃金など。労働基準法などに抵触しているものも見受けられる。

いずれにしろ適正化されない限りは、管理会社への業務委託に切り替えることも難しい。当たり前だが、管理会社は、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」をはじめ、その他の法律や社会的なルールから外れる仕事はできない。大昔ならまだしも、原則を無視してでも、とにかく受託に走る会社はすでにない。

いつでも管理会社に委託できる状態

それでも、長年、このような独自ルールで不都合なくやってきた管理組合も多い。酷な言い方かもしれないが、誤った自信が過信に至ったということだろう。しかし、いつどんな状況で管理組合にとってのリスクになってしまうかはわからない。マンション管理士などに運営上の課題を整理してもらうのもひとつの手立てだろう。

個人的には、原則を遵守し確実な管理運営ができている自主管理マンションが、増えていくことを願っている。無関心で管理会社にお任せの管理組合よりもはるかに素敵だからだ。永く自主管理を続けて行くための必要条件は、若い世代に「つないで行く」ことだ。

一方、十分条件は「誤った自信」ではなく、「原則に則って」運営されていることだろう。
「原則に則って」とは、言い換えれば、いつでも管理会社に委託できる状態で自主管理を行っておくということでもあるのだ。

丸山 肇
執筆者丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

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